フィギュアスケートとはずがたり

ブログ移転いたしました。移転先URLはこちら http://blog.livedoor.jp/aknshbt/

羽生結弦選手はなぜ転倒しても高得点なのか?:2014/2015 ISU GPF 男子SP雑感

【ブログ移転のお知らせ】
当ブログは2015年12月5日をもちまして、 http://blog.livedoor.jp/aknshbt/ に移転いたしました。お手数をおかけしますが、ブックマーク等をしてくださっている方は、URLの変更をお願い申し上げます。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。何卒よろしくお願い申し上げます。



 GPF2014の男子シングルSPが終了し、羽生結弦選手が94.08(今季最高得点)で1位、町田樹選手が87.82で2位、マキシム・コフトゥン選手が87.02で3位につけた。羽生選手は万全のコンディションではないなか、よくここまで復調したと思う。これが彼の底力というものだろう。町田選手も直前練習で絶不調だったのに、本番でまとめてきたのはさすがだ。コフトゥン選手はやはりSPにクワド2本という超難度の構成が奏功した。SP上位3選手を含め、6選手には明日のFSでもよい演技を見せていただきたい。とくに5位発進となったハビエル・フェルナンデス選手は、地元開催のプレッシャーがすごかっただろうから、ぜひ彼本来の伸びやかなスケートを見たいものだ。

http://www.isuresults.com/results/gpf1415/gpf1415_Men_SP_Scores.pdf

本来はFSの結果を待ってから記事を書くべきだが、表題のとおり「羽生選手はコケたのにどうして1位になれたの?」という疑問をお持ちの方がすでにいるようだ。しかしこうした批判はあまりに理不尽だから、よく複雑と揶揄される採点方法(じっさい複雑である)について述べておきたい。内容をものすごく乱暴に要約すると、

(1) 回りきって転倒した場合は、見た目よりも点数に響かない
(2) ジャンプがすっぽ抜けたり(パンク)、コンビネーションにできないことの方が点数的にはまずい
(3) ジャンプだけでなくスピンとステップも重要な要素で、得点源ある
(4) 美しいジャンプ、スピン、ステップでGOEを稼げば転倒した分をある程度カバーできる

ということだ。また、ジャンプのGOE係数についても説明しておきたい。なお、急いで書いたため部分的に表現のおかしい部分があるかもしれないが、ご了承いただきたい(間違い等見つけ次第修正していく予定)。



 回りきって転倒したジャンプと回転不足で転倒したジャンプの違い
 多くの一般視聴者が疑問に思うのはこの点だろう。転倒は失敗中の失敗で、ほとんど点にならないと考えている方もいるかもしれない。もちろん失敗は失敗なのだが、現行のフィギュアスケートの採点法では、転倒は必ずしも得点的に大失敗とは限らない。

 周知のとおり、フィギュアスケートのエレメンツは技そのものがもつ基礎点と、出来ばえを表すGOEの合計で採点される。4回転トウループ(4T)を例に考えてみよう。4回転の基礎点は10.3。4回回りきっていれば、きっちり着氷したか転倒したかを問わず、10.3もらえる。ただし、ここにGOEが総合されるので、素晴らしいジャンプにはボーナスとしてもう何点か上乗せされ、逆に転倒したり着氷が乱れたジャンプは減点される。

 たとえば羽生選手が今回成功した4Tは、非常にクリーンな、しかも難しい入りのジャンプだったので、GOEでプラス2点もらっており、最終的に12.3になっている。逆に4Tで4回回りきって転倒した場合、GOEで3点引かれて7.3になる。回りきっていれば、転倒しても7.3もらえるのである。むろん転倒によるディダクション(減点)がさらにマイナス1あるので、実質的にもらえるのはは6.3だが。とはいえフィギュアスケートにおける6.3はかなり大きい点だ。

 ただし、回転不足だった場合は基礎点とGOEの両方で減点されることになる。4Tであれば、アンダーローテーション(UR、要するにちょっとした回転不足)の場合、基礎点が10.3から7.2に、ダウングレード(DG、ひどい回転不足)の場合は4.1になる。

 たとえば転倒するにしても4TでUR判定となった場合はどうなるか。まず、10.3ある基礎点が7.2になる。そこからさらにGOEで3点マイナスされて、4.2。転倒によるディダクションを含めれば3.2。NHK杯での羽生選手のSPがこのケースだ。転倒したジャンプでも、回転が足りているか足りていないかで、6.3と3.2と2倍近い差がつく。


 4Tを例に、成功、転倒、回転不足等の例を検討してみよう。あくまで例である。ここまでキリのいい数字になることは少ない。

【回転不足なしの場合】
最高のジャンプ……基礎点10.3+GOE3=13.3
なかなか素晴らしいジャンプ……基礎点10.3+GOE2=12.3 ←今回の羽生選手の点
そこそこいいジャンプ……基礎点10.3+GOE1=11.3
ふつうのジャンプ……基礎点10.3+GOE0=10.3
着氷が少し乱れたジャンプ……基礎点10.3-GOE1=9
着氷が大きく乱れたジャンプ……基礎点10.3-GOE2=8.3
転倒したジャンプ……基礎点10.3-GOE3=7.3(転倒によるディダクションを含めて実質6.3)

【回転不足だった場合】まずGOEプラスの評価はもらえない
URで見た目きれいなジャンプ……基礎点7.2-GOE1=6.2
URで見た目ふつうのジャンプ……基礎点7.2-GOE2=5.2
URで着氷が乱れたか転倒したジャンプ……基礎点7.2-GOE3=4.2(転倒によるディダクションを含めて実質4.2)
DGで見た目きれいなジャンプ……基礎点4.1-GOE1.4=2.7
DGで見た目ふつうのジャンプ……基礎点4.1-GOE2.1=2
DGで着氷が乱れたか転倒したジャンプ……基礎点4.1-GOE2.1=2(転倒によるディダクションを含めて実質1)

おなじ4Tでも13.3もらえるケースから2しかもらえないケースまであることがわかるが、とりあえず回転不足さえなければ、見た目ほど得点的にダメージが少ないことがわかるはずだ。だから得点としては、こういう順番になる。

成功ジャンプ>>>着氷乱れ>回りきった転倒>見た目ふつうのUR>>UR転倒>>>>>>>>DG>>DG転倒

まとめその1:転倒しても回りきっていれば、ダメージは見た目よりも少ない


 パンクとコンビネーション抜けはまずい
 回りきって転倒すればあまりダメージが少ないのに対して、すっぽ抜け(パンク)やコンビネーションにできなかった場合は、得点的に非常にまずい。たとえば4Tがパンクして3Tになってしまった場合(羽生選手のCoCのSPがこれにあたる)、実行したのは4回転ではなく3回転のトウループなのだから、3Tの得点しかもらえない。3Tの基礎点はわずかに4.1だから、回りきって転倒した4Tの7.3(実質6.3)を大きく下回ることになる。GOE加点はあまりつかないことが多い。

 また、コンビネーションジャンプにできなかった場合も、大幅に損をする(とくにSPの場合はかなりまずい)と考えるべきだ。SPの場合、コンビネーションジャンプは必ず入れなければならない。入れないと「要素抜け」とみなされてGOEが強制的に最低レベルまでマイナスされる。

 たとえば羽生選手のCoCのSPは、最後に3Lz-3Tのコンビネーションジャンプを予定していたが、最初の3Lzでバランスが崩れてセカンドジャンプがつけられなかった。この場合要素抜けとして、実際に飛んだ3Lzの基礎点6.6(後半なので1.1倍)から、GOEで目一杯引かれて2.1減点されている。最終的に得られた得点は4.5。後半に入れた3Lz-3Tの基礎点が11.11あったことを考えれば、かなりまずいことがわかる。なお、今回羽生選手が転倒したのもこの3Lz-3Tだが、最終的に9.21(転倒によるディダクションを含めて実質8.21)あったことを考えれば、コンビネーションジャンプ抜けの得点的な厳しさはおわかりいただけるはずだ。

まとめその2:すっぽ抜けとコンビネーション抜けは見た目以上に点数が低い


 スピンとステップも重要な得点源
 フィギュアスケート、とくに男子シングルの場合ジャンプが目立ちやすいので見落とされがちだが、スピンとステップも重要な得点源だ。羽生選手は今回、スピンとステップでまず基礎点で13.6、さらにGOEでも稼いで、最終的に17.82を獲得した。17.82といえば、3A2本分くらいの点数である。今でこそ羽生選手はジャンパーとして名を馳せているが、元々はスピンに定評のある選手である。スピンのGOEで高評価がもらえるのも、彼の強みだろう。

 また、今回羽生選手はスピン、ステップともにすべて最高難度のレベル4という判定を受けている。レベルが違えば基礎点も異なってくる。たとえばステップ。ストレートラインステップ(StSq)の基礎点はレベル4で3.9、レベル3で3.3、レベル2では2.6となっている。となると、やはりスピンとステップのレベルをきっちりとった上で、さらにGOE加点が得られる場合、強い。

 だから、もしジャンプで回りきって転倒し、3~4点失ったとしても、スピンとステップをうまくこなし、レベルをきっちりとってGOEで稼げば、失った得点はある程度カバーできる。スピンとステップの点はばかにならないのだ。

まとめその3:スピンとステップも大きな得点源であり、ミスをカバーできる場合があることを忘れてはならない


 ジャンプにおけるGOE係数
 技の出来ばえを表すGOEは、ジャッジの手元の段階では-3から+3までで評価され、最高点と最低点を1名ずつ除いた残りの平均で示される。ただし、これがそのまま直接得点に反映されるとは限らない。ジャンプやスピン、ステップごとに係数が異なるからである。

 たとえばジャンプでジャッジが全員GOE+3の評価を出したとしよう(めったにないが)。当然平均も+3である。3Aと4回転ジャンプ(4Aを除く)は、そのまま反映される。つまりGOEの点を1倍した状態で加減算する。つまり、+3ならば基礎点に3点加算。-3なら基礎点から3点減点。一方、3Aを除く3回転ジャンプは、ジャッジの平均点を0.7倍した状態で加減算する。ジャッジの平均が+3ならば、実際には0.7倍の2.1点加算。-3なら基礎点から2.1点減点。したがって、4回転や3Aは、GOEにかんする限り、ハイリスクハイリターンと言えるだろう。成功したときのGOE加点も大きいが、失敗したときのマイナスも大きい。

 問題はコンビネーションジャンプになったときである。GOEの係数が異なるコンビネーション(たとえば4T-3Tや3A-3T)の場合、係数が高い方が優先される。たとえば4T-3Tの場合、4TのGOE係数は1倍だから、3Tも4T同様1倍の係数で計算される。本来0.7倍の3Tまで1倍で計算されるから得といえば得だが、失敗すればやはり減点幅も大きいわけで、ハイリスクハイリターンであることにかわりはない。なお、GOEの係数が同一のコンビネーションでは、係数はそのままである。たとえば3Lz-3Tならば0.7倍で計算される。


 転倒した羽生選手よりも、ジャンプの着氷が乱れただけの町田選手の得点が低かったことに、疑問を抱く方もいるかもしれない。少しフィギュアスケートの採点を聞きかじったことがある方なら「PCSの差では?」と思う方もいるだろう。たしかに羽生選手の演技構成点(PCS)は43.97で、全選手のうちトップである。対する町田選手は42.50。1.47の差があるが、絶対的な差ではない。問題は技術点(TES)である。羽生選手が51.11あるのに対し、町田選手は45.32だから、ここで差が開いたと言える。もともと羽生選手は後半にジャンプ要素を2つ入れた基礎点の高い構成であるのに対し、町田選手は後半は1本だから、ここで若干の差がつく。また町田選手がスピンとステップでレベルを取りこぼしたことや、GOEであまり稼げなかったことも影響している。

 以下は、羽生選手と町田選手のプロトコル。マーカー部分に注目していただきたい。

GPF2014男子SPプロトコル

 今回羽生選手が転倒したのは3Lz-3Tのセカンドジャンプ。したがって、GOEの係数も0.7倍で計算される。ちなみにジャッジの手元では、ご覧のとおり、

-2 -3 -3 -2 -3 -3 -2 -3 -3

となっていて、最高点と最低点を除いて平均を出すと、-2.71。ただし、GOE係数として0.7倍されるから、じっさいに減点されるのは1.9である(転倒によるディダクションを含めて実質2.9)。ただし、明らかに転倒したにもかかわらずすべて-3になっていないのは違和感がある。とはいえ、セカンドジャンプでの転倒なので、ファーストジャンプと相殺されて-2にとどまった可能性もなきにしもあらず。ちなみにすべて-3で計算しなおせば、じっさいの減点は2.1(転倒によるディダクションを含めて実質3.1)。羽生選手の点は0.2下がることになる。

 一方町田選手の着氷が乱れたのは、4T-3Tのセカンドジャンプ。ステップアウトしている。4Tを含むコンビネーションなので、GOE係数は0.7倍ではなく1倍で計算される。ジャッジの手元では、

-2 -2 -3 -1 -2 -2 -2 -2 -3

こうなっている。やや厳しい点に見えるかもしれないが、ISUの定めたガイドラインでは、ステップアウトは最終的なGOEを-2もしくは-3とすることになっているので、ステップアウトのGOE引き下げ幅は-2から-3で、最終的なGOEはマイナスにすること、とされているため(※)、誤ったジャッジでとは言えない。-1があるのも、プラスの要素があって、そこから-2から-3引いた結果だろう。ともかく、最高点と最低点を除いて平均を出すと、-2.14。係数が1倍だから、基礎点からそのまま2.14減点される。

(※)コメントで誤りをご指摘いただき、修正した。ご指摘に感謝申し上げるとともに、誤解を招く記述があったことをお詫び申し上げる。

 実際におかしたミスとしては、当然羽生選手のほうが断然大きいので、もっと点差が開くように感じられるかもしれない。が、現行のルールに基づく限り、GOE係数とステップアウトに対する評価の関係で、減点が両者ほぼ同点となっている。


 フィギュアスケートの採点法はじつに複雑で、一朝一夕で身につくものではない。解説者もわかりやすく伝えようと努力しているが、やはり伝わりづらい側面があるのは否めない。また、一視聴者、一観戦者である限り、必ずしもルールと採点法を把握しなければならないという義務はない。しかし、選手や採点を批判したり疑義を呈したりする際に、ルールや採点法をある程度把握していなければ、それはただの理不尽なバッシングにほかならないし、選手に対して失礼である。ファンとして気をつけなければならない問題だ。むろん、自戒をこめて。
スポンサーサイト



該当の記事は見つかりませんでした。